第1回 社会学者・大学准教授 Sさん

Sさん:僕も、居場所ないなってちょっと思っているところがあるんです。どこ行っても疎外感というか、なんか合わないなっていう。でも、誰かといたいけど、ずっと一緒にいると疲れてきちゃったりして、一人になりたくなっちゃったり。だから、居場所って「ここにずっといて良いんだ」みたいな感じの場所なのかなって思うけど、ずっとそこにいたいわけではない。居場所っていうのは、いつでも戻れるって感じられる場所、というのがあるのかもしれません。


私:行きたいと思った時に行ける、みたいな安心感?


Sさん:そうですね。頭の中で、少なくともここにはいられるなっていう。安定性かな。疲れた時とかに、あの人だったら愚痴聞いてもらえるかな、とか。そういう関係性が居場所なのかな。


私:人との関係性ですかね、Placeじゃなくて。


Sさん:そうです。ただ、実際にその人と会ってるっていうよりかは、頭の中でそういうふうに思えるっていうこと。


私:会っていない時でも?


Sさん:実際会うとね、なんか全然俺の話聞いてくんねーだとかありますよね(笑)。いざ会ってみたら、あんまり話聞いてくれないけど、そこでもう関係が終わりじゃなくて、まぁ大事な関係だなって思えてることが居場所なのかな。


私:「つながっている人が自分にはいるんだ」っていうことが心の支えなんですね。


Sさん:ずっとそういうこと考えてるわけじゃないけど、なんかあった時とかに、むちゃくちゃしんどくならないで済む。そういう関係があるって思える時には、それこそ「誰も自分のことなんかわかってくれない」とか思わないで済みますね。


私:どうしよう私、けっこう「誰もわかってくれない」って思っちゃうタイプなんですよ。どうしたらそういう友達ってできるんですか?教えてください友達の作り方を!(笑)


Sさん:えー!でもすっごい限られてますよ(笑)。なんだかんだ、今40歳近いんですけど、この年まで・・・まだ(とおふじさんは)若いですよね。


私:若く見えますか??(笑)


Sさん:若いですよ(笑)。全然違うもん。僕やっぱり、30ぐらいの感覚と40近くなっての感覚って大分違って。30になるとけっこうショック受けたんですけど。いやもう30かぁ、人生下り坂じゃんって。あと倍足したら60で、これまでの30の密度より絶対薄いだろこの後の30って思ってた。でも、40になるともっと有限で、現世でもっと人間関係大事にしなきゃなって逆に思う。この年まで一緒にいてくれた人って、ありがたいなっていうか。30ぐらいまでって、もっといろんな人と出会えるし、いろんな関係が自分には作れるって、どっかで可能性みたいなのを感じてたんだけど、もっと現実的に、そんなに広がらない関係の中で、自分が大事にできる関係ってなんだろうみたいなことを考えるようになって。なんか謙虚になってきた。


私:40の年を重ねたことで謙虚に。


Sさん:謙虚になってくると、腐れ縁とかも含めて、あ、腐れ縁も大事な縁なんだなって感覚が出てきてる。それは、すごい理想的な関係、自分をむちゃくちゃわかってくれるとかいうわけじゃないし、自分の話を聞いてくれない人かもしれない。でも、この関係はこんな関係で続いてくんだなっていう。


私:自分と付き合ってくれること自体がありがたいっていう。


Sさん:そうそう!


私:私、あと2週間で30なんですよ。すごいナーバスなんですよ。まさしくね、もう三十路かと!


Sさん:僕も30になるとすごいナーバスだった。けっこうずっしりきますよね(笑)


私:もう毎日、20代終わるまであと何日、みたいにカウントしてるんですけど。そう、人間関係もこのままじゃまずいんじゃないかとか、もっと広げなきゃみたいな焦りもあって。でも、私も40近くなったらSさんみたいに謙虚になれますかね?


Sさん:絶対なると思う!否応なく、残酷な時の流れによって(笑)、謙虚にさせられていく。


私:40が、人間謙虚になるラインなんですかね。


Sさん:40ってもう、むちゃくちゃ逃げようがなくないじゃないですか。自分を受け入れるしかないみたいな。この年まで生きてきた自分を、どんな自分であれ仕方がない。だから、楽になる部分もあるし、悲しい・・・こう、おじさんである自分を受け入れてくみたいな。


私:あぁもう自分はおじさんなんだと。


Sさん:話変わって良いですか。今日、3歳の甥っ子を、姉と一緒に幼稚園に迎えに行って、1時間くらい一緒にいたんです。そしたら、甥っ子が「そろそろ帰って!」って言って。僕すっごいショックを受けて!「もうばいばい」って、むちゃくちゃ帰そうとするんですよ!


私:なんの怨みがあって(笑)。


Sさん:こっちは可愛い甥っ子だと思って愛を注いでたはずなのに・・・。


私:哀しい・・・!いつもそんな感じなんですか?


Sさん:いやいや、初めてで。めっちゃショックで。だから、色々諦めて、謙虚になった40間近でもなお、こういう仕打ちを人生は与えてくるのか。けっこう今ね、心が折れそう。


私:3才だから反抗期?


Sさん:いやなんかもう帰ってほしかったんでしょうね。


私:自分が優しくしたいとか、愛したいって人から拒絶されるこの悲しさ!


Sさん:そう。自分はこっちから愛を示すタイプじゃないんですよ。拒絶されるのが怖いから、なるべく「別に」って顔をしてて、誘われたら行くけどみたいなタイプなんですよ。だから、とおふじさんは自分から人間関係をちゃんと作っていこうと思えててすごい。


私:うーん、それは人に救われてきたからかなぁと思って。


Sさん:すでに僕よりは謙虚ですね!


私:いえいえ、実際に人間関係を大事にできてるかは微妙ですが。根暗からこんな性格になれたのは、本当に自分の努力じゃなくて、周りの人に恵まれたからとすごく思ってて。今も本心は人嫌いなんです。でも、やっぱり人にも救われてきて、年重ねるごとにコミュニケーション楽しいなって思えてきているので。


Sさん:すごい!それは良い年の取り方ですね。だって僕なんか、たぶん傲慢過ぎたんですね自分が。


私:というと?


Sさん:大学時代に、環境が良かったから自分が変われたみたいなふうにあまり思ってなくて。自分でやってきたみたいな、どっかで思ってた。でも、ようやく40になって、自分の力だけじゃないんだぞ、生かされてるんだぞって気づかされて。でもなお、その上で甥っ子には帰れとか言われて(笑)。


私:それは私でも傷付きますよ。


Sさん:ようやく謙虚になって、自分と付き合ってくれる人を大事にしようって気持ちになってるんですけど、とおふじさんは、もうそう思ってるんですよね?


私:子供の頃にそういう人がいなかったんでね。だから、話しかけてくれる人は大切にしようってすごく思うし、自分はどちらかと言うといじめられ体質なんで、多数派じゃないし。だからこそ、またいつ孤立するかわからないっていう危機感があるから、「お願いだから私と離れないで!」みたいな、ある意味重い感じ。ものすごく友達依存。


Sさん:そうなんですか?それこそ本のイラスト(※とおふじ著)と一緒で、上手く表現するものを選べるようになってるから、あんまりそういう印象を受けないですけど。


私:他人の前で重くならないようにしようっていうのは心掛けています。なるべく軽く。重さの片鱗を見て人が離れていった経験もそれなりにあるので、気をつけよう!っていうのはあります。


Sさん:今、40の壁を前に、謙虚になった自分からすると、


私:壁(笑)。


Sさん:無理して付き合ってた関係って、あんまり結局続かなかった。自分と素質が似ている人との関係は、結果的に続いて。振り返ってみると、あ、似てたんだなって、似てる部分があったから続いてんだなって思う。今、40手前までずっと付き合いが続いてるって思った時に、その人の嫌だなって思ってた面って、自分の中で否定してた部分でもある。そういう嫌だなってところも冷静に見れるようになってきた。


私:ちなみに、40目前で謙虚になったっていうのは、きっかけがあったんですか?それとも、自然と時間に任せてそうなった感じですか?


Sさん:気付いたら。30代が気付いたら終わりかけている状況で、別に自分で終わらせるつもりはなかったのに終わりになるっていう。不可抗力。その過ぎ去った10年間、自分に何が残ったんだろうって思うと、自分の素質を受け入れるしかないんだなってことと、そういう自分を共有できる人との関係が残って。この先も、そういうのを大事にしていきたいなっていう感じ。


私:私も謙虚になれたら良いなー。


Sさん:いやもう、39になったら、同じこと言ってますよ。「あの頃私はまだ甘ちゃんだったわ」みたいな(笑)。


私:でも、その頃にはSさんは更に達観されてるかもしれない(笑)。


Sさん:もう死んでるかもしれない(笑)。


私:そんなそんな(笑)。また10年後に対談して、その時なんて言っているか。


Sさん:もう30かって思ってるでしょ?


私:はい。


Sさん:でも10年後、あの時まだ30だったんだわ私って絶対思うわけですよ。何言ってたんだろうみたいな(笑)。自分の人生の中で、常に今が一番若い。だから、10年後40になった時だって、50になった自分から見たら、40の自分って若いわけですよ。60になったって70になった自分から見たらまだ若かったなって。実際そう思うと思う!


私:それなら、10年後にこの録音した対話を2人で聞いて、


Sさん:もうこの世にいないよ。


私:早い~!まぁ私も人のこと言えないけど(笑)どうなってるんでしょうかね、10年後。


Sさん:絶対生きやすくなってるんじゃないかなとは思いますね。今の僕よりも。


私:だと良いなーって思います。ある程度、年が解決するって聞きますしね。

とおふじさおり対談ブログ

兼業イラストレーター/生きづらサバイバーのとおふじさおり(※下戸)が、いろんな方を飲みに誘う

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